コラム

ウサギさん「うさぎさんの妊娠中毒」

うさぎさんの妊娠中毒は、妊娠という生理的に大きな変化の中で、母体の代謝が限界を超えたときに起こる重篤な病気です。決して珍しい疾患ではありませんが、発症すると進行が早く、飼い主さんが異変に気づいた時点ですでに危険な状態に陥っていることも少なくありません。

 

妊娠後期のうさぎさんの体では、胎児の成長に伴いエネルギー消費が急激に増加します。本来であれば、十分な食事摂取によってその需要は満たされますが、食欲不振やストレス、肥満による代謝の乱れなどが重なると、体は脂肪を急激に分解してエネルギーを得ようとします。この過程でケトン体が過剰に産生され、血液が酸性に傾くことで全身状態が急速に悪化します。これが妊娠中毒の正体です。

 

この病気が特に恐ろしいのは、初期症状が非常に分かりにくい点にあります。食べる量が少し減った、動きが鈍くなったといった変化は、妊娠中によくある様子として見過ごされがちです。しかしその裏では、すでに代謝異常が進行していることがあります。やがて元気消失や呼吸の異常、歯ぎしりなどが目立つようになり、短時間のうちにけいれんや意識障害へと進行してしまいます。

 

治療は常に時間との勝負になります。点滴によるエネルギーと水分の補給、代謝バランスの是正が行われますが、状態によっては母体を救うために緊急的な分娩や帝王切開が選択されることもあります。それでも、発見が遅れた場合には治療が間に合わないケースがあり、予後は決して楽観できません。

 

だからこそ、妊娠中毒は「治す病気」というよりも、「防ぐべき病気」と言えます。妊娠前から適正体重を維持し、妊娠後期には十分な栄養と水分を確保しながら、ストレスの少ない環境で過ごさせることが重要です。そして何より、日々の食欲や行動のわずかな変化に敏感になることが、最大の予防策となります。

 

妊娠はうさぎさんにとって自然な営みである一方、体には大きな負担がかかります。妊娠中毒はその負担が限界に達したときに現れる、静かで危険なサインです。飼い主さんが早く気づき、迷わず動物病院に相談することが、母うさぎさんと生まれてくる命の未来を守ることにつながります。