コラム

ワンちゃん「狂犬病」

いよいよ夏休みの到来です。家族でお出かけを考えている方も多いでしょう。海外で休暇を過ごそうという方もいるかもしれません。ワンちゃんはその間ホテルでお泊りか、親せきや友人に預けるという方が多いかもしれませんが、中には一緒に渡航したい方もいるでしょう。しかし、海外からワンちゃんを連れて帰ってくるのは検疫が大変、そんな話を聞いたことがあるかもしれません。そこで今回は、ワンちゃんの検疫がなぜ大変なのか、その主な理由である狂犬病について考えてみましょう。

 

狂犬病とは、ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルスによる感染症で、動物の唾液腺で増殖したウイルスが咬傷などにより体内に入ることで感染します。体内に侵入したウイルスは末梢神経から中枢神経へ達し、そこから各神経組織を通して唾液腺へ到達します。発症すると喉がマヒし、唾液を飲み込むことができなくなります。潜伏期間はワンちゃんの場合2週間から2カ月と言われますが、ウイルスの侵入部位によって発症までに長期間要する場合があります。発症すると様々な刺激に過敏に反応するようになり、動物の場合目の前のもの全てに噛みつくような狂躁状態になったり(狂躁型)、体がマヒして昏睡状態に陥ったり(麻痺型)します。一部の種を除き、基本的には発症当初は狂躁型、末期に麻痺型になる経過をたどります。人間では狂水症と呼ばれていたこともありますが、これは発症した人では水を飲もうとするとその刺激で喉や全身で痙縮が起こり苦痛を引き起こすことからこう呼ばれるようになりました。また、子供で発症が早いといわれていたこともありますが、これは背丈の小さい子供では大人よりも動物に噛まれる位置が中枢神経に近い部分になりやすかったためと考えられています。
この病気の恐ろしいところは、発症すればほぼ100%の致死率になることです。しかし、狂犬病ワクチンは存在するため予防は可能です。また狂犬病にかかっている恐れのある動物に噛まれてから複数回ワクチンを接種(暴露後接種)することで発症を防ぐこともできます。

 

日本国内では1950年の狂犬病予防法施行以降、ワンちゃんへの年2回の予防接種が義務付けられた結果、1956年を最後に人での海外輸入例を除いて狂犬病の発生はなくなり、予防接種も年1回でよくなりました。国内からは狂犬病は撲滅されたのです。しかし、こうした国は少なく、世界のほとんどの国や地域では今も狂犬病が存在し、毎年数万人が死亡します。犬だけではなく猫やリス、コウモリやキツネから感染した例もあるため、単に野良犬に注意すればいい、ということでもありません。

 

このように、先人たちの多大な努力によって狂犬病清浄国というステータスを得た日本に再び狂犬病を侵入させないため、また万が一侵入しても被害を最小限に抑えるために海外からのワンちゃんを含む動物の輸入にはマイクロチップの埋め込みや狂犬病ワクチンの接種、血液中の抗体価の測定などを行ない、輸入前と輸入後の待機期間を設けるなど様々な処置や手続きが必要となり、国内では基本的にすべてのワンちゃんに年1回の予防接種が義務付けられています。

 

近年、狂犬病ワクチン接種率は7割程度まで落ち込んでいます。地域によっては5割近くまで低下しています。WHOによると狂犬病ウイルスが侵入した場合に蔓延を防ぐためには70%以上の接種率が必要とされています。このままでは万が一感染した動物が侵入したときに蔓延を防げず、多くのワンちゃんを殺処分せざるを得なくなってしまいます。
狂犬病ワクチンは4~6月に接種することが義務付けられていますが、その期間以降に飼い始めた場合や期間内に接種していなかった場合はこれ以外の時期にも接種ができます。もしかしてウチの子ワクチン打ってないかも?と思ったら速やかに病院に相談してください。